


愁いを含んだ王妃の瞳に映る景色は渦を巻いて立ち上がり、そして崩れ落ちる吹雪と白一色の 銀世界だけになってしまったのです。 9ヶ月あまりの月日が過ぎても、王妃はただひたすら王の帰りを求め窓から外をみつめていました。 日本語訳:山口 洋子

「ねえ、大好きな私の鏡よ、本当のことを聞かせておくれ。王妃の私は誰よりも愛らしく、雪のように 白い肌、燃えるようなばら色の頬、この魅力的な容姿にかなうものはいないだろう。国中で一番 美しい女だろう。」 - からだをくねらせウインクして高価な絹ドレスを脱いだり、着たりします。そして次には両手をしなやか な腰にあて身をそらして踊りまわり、鏡の中にちらっと映る自分の姿を誇らしげに眺めるのです。 日本語訳:山口 洋子

下女は心の中でためらいながも、王妃の命令に従って姫様を森へ誘い込みました。 「姫様、ここでお別れしましょう。お元気でお暮らしください。」 日本語訳:山口 洋子

可愛い姫様が突然消えてしまった。 都から村へ噂がひろまり、王様も大変悲しみ、ふさぎ込んでしまいました。婚約者のエリーゼ王子も 神に姫の無事を祈り続けましたが、依然として帰らぬ美しい姫を求めて、たった一人で愛馬に乗り 旅立ちましたました。 日本語訳:山口 洋子

下女と別れた姫様は夜が明けるまで森の中をさ迷い歩き、やっと屋敷らしきものを見つけました。 日本語訳:山口 洋子

姫は高いベッドから静かに降りてきて、彼らの前に姿を見せました。 この屋敷の主人である7人兄弟に敬意をあらわして深々と頭を下げ、恥ずかしそうに顔を赤らめ、 招かれた客でもない自分が黙って屋敷に入り込んでしまったことを詫びました。 日本語訳:山口 洋子

美貌と知恵、そして華麗なレッテルをまとう王妃には、しなやかな白い我が手を黒く汚すことなど露 ほど付着していないのです。その代わり下女のわずかな人間的心の灯火を紙くずとして蹴散らし、 さらに自分の下女に非道を負わせる汚い心の手は、動いていました。 「チェルナーフカ、王妃の私に嘘をついて逆らったお前はどうなるか知っているだろう。首かせを はめて痛めつけられ、殺されるのだよ。それがいやならあの小娘をすぐに殺しておいで。」 王妃は恐ろしい顔で、恐怖のためひれ伏す下女をおどしました。 日本語訳:山口 洋子

「ありがと う、神様からの祝福を祈りますよ。パンのお礼にこのりんごをあげましょう。」 - みずみずしくて手に取るとすぐに食べてしまいたくなるほど、美味しそうなりんごです。 日本語訳:山口 洋子

おいしそうな匂いがして、透明な甘い蜜がつまっていて、透けて種が見えそうに感じられ、思わず 唇をつけてしまいたいほど。 とうとう姫はりんごを手に取ってほんのひと口食べました。 日本語訳:山口 洋子

3日3晩、一睡もせず姫の周りで祈り続けた兄弟の願いもむなしく消え、姫のきらきら輝く澄んだ瞳を 彼らは2度と見ることは出来ませんでした。 日本語訳:山口 洋子

「希望の明かりを永遠に燃やす太陽よ!あなたは一年中広漠たる空を散策し、寒い冬から暖かい 春を呼び招き、私たちを見守っている。そんなあなたに尋ねたいのですが、世界のどこかで清楚な 美しい姫を見かけませんでしたか? 姫は私の許婚です。」 日本語訳:山口 洋子

「黄金色に輝く三日月の友よ! 果てしない暗闇の中に、明るい目の色でまろやかな君が姿を現 すと、自然界のその儀式を愛している星たちは、君に夢中で熱い視線を向けるのですね。そんな 君に尋ねたいのですが、世界のどこかで清楚な美しい姫を、私の許婚を見かけませんでしたか?」 日本語訳:山口 洋子

「たくましい兄貴の風よ! 脈々として力強く、黒雲の群れをも全速力で追跡し、瑠璃色の海を波 立たせ7色に変えてしまう君、そしてどこへでも自由に飛び回り、君には恐れるものが何もないので すね、神の他には誰一人。そんな君に尋ねたいのですが、世界のどこかで清楚な美しい姫を見 かけなかったでしょうか? 私は姫の許婚です。」 日本語訳:山口 洋子

王子は揺れ動く寝台に寄り添い、姫の手を静かにとって唇につけ、ほとばしる愛しみの感情から 鼓動する我が胸に姫をしっかりと抱き寄せました。 日本語訳:山口 洋子

翌日、輝く太陽のもとでエリーゼ王子と姫はめでたく結婚式をあげ、盛大な祝宴が開かれました。 身をもって多難を乗り越えた2人が、人々に信頼されるよき統治者となることを人々は願い、祝酒で ひげを濡らして喝采にひたりました。 日本語訳:山口 洋子

アルシュイラストボードにアクリルガッシュ使用